少年院を取り巻く二重の孤立―まず、支援者のソーシャルキャピタルになること

 

育て上げネット―工藤啓(前編)

若者支援の先駆者としてニート問題に向き合ってきた認定NPO法人育て上げネット。その育て上げネットがこの数年、少年院の支援を目論んでいる。聞けば、少年院を出所する少年・少女たちだけではなく、少年院そのものが孤立無援の状況に置かれているという。育て上げネットはそこに何の可能性を見出そうとしているのだろうか?

孤立する少年院という実態

少年の支援の世界でずっと何年も生きてこられた方の話を聞くと、共通することがあります。それは「自分が仕事で何をやっているかということを外には言わない」ということなんです。

例えば、「少年院で仕事しています」と言ったときに当事者とは直接関係はないけれど、別の少年からの被害経験のあった人から責められたり、悪気はないかもしれないけれど、「加害者はもっと厳罰化すればいいんだ」という地域の声に晒されたりといったことが起きているんです。支援の対象が加害者の側だからですかね。

だから、この分野の支援者の方々は孤立無援を感じながらご苦労されています。支援者側も当事者側も、社会的なつながりが薄いわけです。孤立無援の状態にもかかわらず、少年院の退院者の社会復帰だ、再犯防止だと言ったって、それは厳しいわけです。

例えば、女子少年院の方に「私は30年間、この仕事をしてきたけど、会議のテーブルにNPOとか民間の人がいる時代が来るなんて、思ったこともなかった」と言われたり、また、別の職員の方には「保護司さん以外で、自分たちをこんなに応援してくれる人がいるなんて、ほんとに知らなかった」と、涙ながら握手を求められたこともあります。

工藤啓

特定非営利活動法人育て上げネット理事長、金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師
1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)など。

少年院総数

全国51庁(平成30年10月1日現在)
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse16-04.html

育て上げネット-1

「開かれた少年院」という追い風

――日本のNPOがある程度の規模まで行ったときに、次の本格的なチャレンジにはなかなか手を出せない現状があります。その中で、少年院支援を本格化させるのはなぜなのでしょうか?

ひとことで言ってしまうと、社会の変化と自分たちが考える戦略が、一致したからですね。

2015年に法律が変わって、〈新少年院法〉ができました。その新少年院法の理念のひとつが「社会に開かれた少年院」ですね。これは、画期的な変化でした。これまでは少年院と協力関係を結べるのは、保護司さんなどある特定の職種の個人に限定されていました。それが、我々のようなNPOも連携できる可能性が生まれた。ゼロがイチに変わったわけです。

少年院の院長か矯正管区長の決定があれば、民間団体と連携ができるようになりました。ここが変わらなければ、我々のようなNPOは何もできなかった。

さらに再犯が起こらないように出院者の方の社会復帰支援を基礎自治体に義務付ける新しい法律が施行されました。従来からの自分たちが試してきたことに、法の変化という追い風が一気にやってきました。

新少年院法

平成27(2015)年6月1日施行。少年院法が〈新少年院法〉になり、今までなかった〈少年鑑別所法〉が新設された。
参照)法務省「社会に開かれ,信頼の輪に支えられる少年院・少年鑑別所を目指して」より
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei03_00019.html

少年院が日本全国の若者のセーフティーネットになるかもしれない

ところで、支援を届けるには2種類のアプローチがあると言われています。「ハイリスク・アプローチ」と「ポピュレーション・アプローチ」の二つですね。

インフルエンザになった人に向けて、病院に行こうね、タミフル打ちましょうと働きかけるのがハイリスク・アプローチ。リスクの大きな対象者の状況を変えることに主眼があります。一方、ポピュレーション・アプローチはまず、手洗い、うがい、そして、温かい食事を摂りましょうということですね。可能性のある母集団の全員の認識や行動を変えていくための啓蒙をしようというアプローチです。リスクの大きな対象者だけではなく、母集団全体の行動が変わることで、リスクを下げていくわけです。

結局は、支援を届けるということは困っている人をどう探してどう届けるかということにつきると思います。

若者支援のようにリスクが顕在化しにくい分野においては、母集団に端からアプローチしておけば、困ったときにそのまま来てくれるだろうという発想がありました。それがポピュレーション・アプローチと呼ばれていると知り、育て上げネットの戦略として意識するようになりました。

少年院の話に戻すと、実は少年院って全国に51カ所しかなくて、たった51の少年院と連携できると、「すべての少年院」と連携できます。51カ所によい取り組みを導入できれば、すべての少年院にいる少年・少女たちに、年間で言えば約2500人に届けられる。

困るかもしれない若者と、極端に困難な状況に置かれている若者の支援は本来、補完的なはずです。ひょっとすると、このアプローチの方法はセーフティーネットと呼ばれるシステムの変容につながるかもしれません。

ポピュレーション・アプローチ

ロンドン大学のジェフリー・ローズが1985年発表の論文”individuals and sick populations”の中で最初に示した。
予防医学・公衆衛生の分野において、発症リスクの高い人、重症化するリスクの高い人を発見し対策を講じるハイリスク・アプローチに対して、個人のリスクの大小にかかわらず対象者全員に対策し集団全体のリスク抑止に着目する。

まず、支援者のソーシャルキャピタルになること

それでも、僕らが、当事者である少年・少女に会う必要がある。ただし、方法は限られています。支援の入り口は2つしかないんです。

1つ目は保護司さん・保護観察官から連携依頼をもらう。
2つ目は少年院の中にいるうちに、法務教官などから「仮退院が決まったからあの子はお願いしますよ」と声をかけてもらうこと。

僕らが採ったのは法務教官の方々を応援するというアプローチです。じゃあ、どうしたらそんなふうに、法務教官の方たちから信頼してもらえるのか?

今、少年院の中で学習支援やPC講習をやらせてもらっていますけど、極論を言えば、あれは別に僕らじゃなくても良いんです。僕らがやりたいこと、得意なことをやってるわけではなくて、法務教官の方たちに、「何か、僕らがお手伝いできることはありませんか?」と訊いた結果なんです。

誰でも得意、不得意ってあるじゃないですか。でも法務教官の方たちは、少年のためにやることを自ら学び指導する方法が一般的だったんです。そんな中で最初に声が上がったのがPC講習でした。高卒認定試験に合格するための個別の学習支援も法務教官の方たちにとって重い部分を担わせていただいています。

でも今の僕たちにとって本当にやりたいこと、やるべきことは、信頼を得て貢献できる機会をつくること。自分たちの専門性ありきではなくて、まずは目の前の人のニーズに応えていく、僕たち自身が、支援者側の資源の一部になることなんですよね。そうすれば、将来的であれ、少年院の中にいる少年の更生自立に貢献させていただける。

こうしたことがやっと花開きつつあって、引受先のひとつとして仮退院前に面談ができる、さらに出院後にネットワークで受け入れる事例がいくつかできてきました。

居場所があれば、人は前に進むことができる

最後に出院後の話を少しだけ。帰住先と就職先か進学先が決まらないと、日本の社会って居場所がないんですね。

例えば、無職の人の再犯率は有職者の5倍というデータがあります。その背景には、退院・転院した瞬間に、「支援をする中の人は街で少年と会っても知らないふりをする」というルールが最近までありました。つまり、少年院の教職員ですら、出院したら少年と接触できない。

出院後は、矯正局から保護観察官や保護司さんに引き渡され、今度は法務省・保護局の管轄になります。この間、特定個人の支えが途切れます。重なるところがほとんどなかった。あまりにも縦割りすぎる。

就職先か進学先が見つからない限り、その先にも進めないというのがこれまでの社会復帰でした。そこで、育て上げネットを仮の所属先にすることにしたんです。仮に職業訓練が目的だったとしても、就職か進学かの二択以外の、第三の道が開けるんじゃないかと。それだけでも、次のつながりにつなぐことができるんです。

これは僕たちが高校との連携でずっとやってきたメソッドでもあるのですが、それは少年院出身者の支援という分野にも活かすことができています。

就労状況と再犯率

「保護観察対象者の再犯率(就労状況別)」は有職者7.4%に対し、無職者36.3%(平成14~23年累計)である。(平成24年版犯罪白書 第7章より)

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阿部真紀

阿部真紀

神奈川県横浜市生まれ。困難な立場にある人の人権に焦点を当てた人文社会系出版社にて書籍編集者を経て、その後、人と組織の変容支援の現場に携わる。個別支援、コンサルティングと並び、取材・ライティングを通じ、共に生きる生命の可能性を探求し続けている。

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