オンラインワークショップはソーシャルイノベーションを育むか?

 

川端元維が見た「非営利組織の経営」講座

世界を覆ったコロナウイルスの感染拡大は日本の非営利セクターにも大きな影響を与えている。なぜなら、大半のNPOやソーシャルビジネスが「対面での対人支援」を通して価値を生み出しており、対象とする社会的弱者や活動する地域が違ったとしても、リアルな空間に人が集まってなんぼの世界なのである。

そんな中、コロナウイルスのパンデミックが非営利組織の経営に与えた影響は計り知れない。計画していた事業が実施不可能になったり、企業や財団等からの大口寄付が消し飛ぶ、あるいは社会からの要請が劇的に増加する。そこかしこで事業運営上の混沌が生まれている。

これは事業モデルや経営のあり方の根本的な見直しを迫られる緊急事態だ。だが、顔をつき合わせて対策をしようとも、移動や集合そのものが封じられている。そんな中、社会起業家や非営利組織のリーダーたちも、インターネットを頼りに心を合わせ、手を動かさざるを得ない状況に置かれていた。激変していく環境の下で非営利組織のリーダーたちは、どのように転機を乗り越えようとしているのだろうか?

オンラインワークショップという挑戦

2020年3月。コロナウイルスの感染拡大が世界を覆しつつある最中、リープ共創基金(REEP)の加藤が主催する連続講座「非営利組織の経営」がオンラインで開催された。非営利組織の経営の本質を学びあうのを目的に約20名の各地の社会起業家や非営利組織のスタッフが参加した。

参加者の活動分野は国際協力、教育、子育て支援、メディア等多岐に渡り、組織での役割を見ても、創業経営者から管理職、スタッフメンバーやこれから起業を目指す人まで、幅広い層の参加者が集まった。

筆者はその場に参加者兼執筆者として同席させて頂いた。私は2015年に独立し、以来一貫して、スタートアップ企業やNPOの事業開発や連携促進を行う事業を営んできた。今回、筆者から加藤に記事を書きたいと申し出たのは、一般的な企業経営については書籍やMBAを通して学べる機会が多いが、社会課題の解決を目指す事業の経営については良質な形式知がまだまだ少ないからだ。知恵やノウハウを学び、仲間や先輩と出会いを通して現実を変えていく学びの機会のほとんどが東京に集中している。

そんな状況だからこそ、非営利事業の支援実績と国内外のネットワークを数多く有し、コンサルタントや著者として知見を体系化する力に長けた加藤の講座を記録に残すことがこの業界にとっての資産になると直感した。

非営利事業の複雑性をインターネットで共有することはできるか?

前提として、非営利組織の経営は非常に複雑だ。

一般的な営利企業は売上や利益等の明確な財務目標に向かって直線的に進んでいくが、非営利組織の場合はそもそもの事業の目的や成果を定義するところから始めねばならず、とても高度な技術が求められる。

まずは、オンライン講座そのものの構成を紹介したい。

全体構成としては約1週間おきに開催される集中講座(半日)が2回、そして参加者それぞれの実際の経営上の課題を取り扱う疑似理事会が1回。講座のコアテーマはTheory of Change(非営利組織における戦略)であり、参加者は毎回事前課題に取り組んだ上で集まり、加藤のレクチャー、参加者同士の相互フィードバックやディスカッションを通して自団体の戦略やあり方について新しい気付きを得ていく仕立てだった。

テーマや構成を見るだけでも歯ごたえのある内容だと感じたが、それをすべてオンラインで完結させるのが今回の講座の大きなチャレンジだ。なにせ、初日のテーマは「Theory of Changeと非営利組織の拡大可能性」、二日目のテーマは「非営利組織の経営改革」が掲げられた。

レクチャーや疑似理事会ではオンライン会議システムzoomが活用され、事前課題の作成や講座の中での参加者同士のワークではオンラインワークショップツールMuralが使用された。

この講座が開催されたのは2020年の3月であり、世の中の多くの法人・個人がリモートワークへの移行で試行錯誤している最中だった。したがって、参加者だけでなく講師の加藤や事務局も含め、それぞれリモートワークやIT活用の経験値が異なる中で試行錯誤していく挑戦になった。

最初の方こそ全体的にぎこちなさが垣間見えたものの、講座の冒頭にオンラインツールの使い方の時間を丁寧にとったことや、Facebookのメッセンジャーを活用した自律的でテンポのよい助け合いのおかげで、この講座に関わる人達が主体的に不安や不明点を溶かしていき、講座を通した学びに集中できる環境が次第に整っていった。

終盤、ある参加者の方が「この講座のあり方自体がNPOっぽい」と語っていたが、講師も運営側も参加者もそれぞれに出来ることを自分でやっていく自律的な文化づくりが、良質な学びを生む前提なのだと改めて感じた。

Theory Of Chage

非営利組織における経営戦略の通称。株式会社における経経営戦略同様、非営利組織が調達する資源から、成果、中期的な変化までの論理モデルを示すものから、ビジョンや信条を体系化したものまで幅広い概念だが、資金提供者や組織の成員、ステークホルダーまでの対話のツールとして用いられることは共通している。

共通言語としてのTheory of Change

加藤は企業の共通言語が「経営戦略」とすれば、社会の変化における共通言語がTheory of Changeだと語った。

 経営戦略Theory of Change
対象領域市場社会的課題
対象者顧客、株主受益者/当事者
支援者
目的競合優位性
利益率

資源の調達
組織の範囲企業
クローズドシステム
社会
オープンシステム
評価利益社会的インパクト
受益者数

REEP加藤作成の図を転載

企業における経営戦略がどれだけ稼ぐかの指針を示すものだとするならば、Theory of Changeはどの社会課題をどれだけ解決するかの指針を示すものだ。経営戦略が投資家や顧客との対話のツールであることと同様に、Theory of Changeも組織内外のコミュニケーションに役立つものだ。この前提に基づいて、講座に参加している日本各地の社会起業家や非営利組織のリーダーがTheory of Changeを作って持ち寄り、2人1組でお互いにフィードバックを行うワークから学びは始まった。

正直に話すと、私は全員がいきなりTheory of Changeを作るのはハードルが高いのではないかと思っていた。この手の戦略フレームを使い慣れているビジネスプロフェッショナルならともかく、多種多様な人が様々な形で関与する非営利組織において、特定のフレームワークに縛られて、戦略や計画を考えてみましょう!というアプローチが有効だとは思わなかった。

しかし、加藤が作成したワークシート「Theory of Change Canvas」が秀逸だった。ワークシートでは、出会いたい支援者から、最終的に変化を享受する受益者まで記入項目として非営利事業を運営する上での重要なポイントを網羅しているので、どんな役割の人であっても、どこかしらの項目はその人の目線から捉えているものを詳しく書けるようになっていた。

オンラインワークショップ画像

支援者像から受益者数増まで一図で網羅されたTheory of Change Canvas

つまり、各人がつくったTheory of Changeそのものが未完成なものだったとしても、ワークを通して考えを進化させたり、新しい発見が生まれたりするものになっていた。

各人はペアワークに進むがその際の問いは、以下の4つだった。

  • Theory of Changeにどういうエネルギーを感じたか
  • 良いと感じた点は何か?
  • さらにこうすると良いと思った点は何か?
  • 自分だったら何に貢献できそうか?

4つめの「自分だったら何に貢献できそうか?」という問いは社会を変えていく仲間を増やし、力を集める観点でとても重要だ。

誰かの力を借りるという覚悟

加藤は社会起業家精神の重要な側面を「個人・組織の影響力の範囲を超えながら、社会的目標に傾倒すること」と定義していた。社会を変えていくには、一人・一社の力は微力なものにも関わらず、壮大な目標を掲げるという矛盾を受け入れることが大切だという。

その矛盾を乗り越えるには、加藤の言葉を借りると「誰かの力を借りる覚悟が必要」なのだが、ではどうしたら私達は、自分たちの能力の限界を超えた資源を受け止め、仲間を増やし、力に変えていけるのだろうか。

一方で、今回の講座の参加者の中にも「慢性的な資金難の打破」や「行政や企業との効果的な連携」等のテーマで積極的に問いかけをされる方々も目についた。

個別の事例を見ていけば優れた実績を持つプレイヤーも存在するが、日本の非営利セクター全体はこれから伸びしろのある領域だ。加藤は非営利組織を「風にのる凧」に例えるが、加藤が言うように「風」に乗れるとすれば、どのようなやり方があるのだろうか?

リーダーの支えからつくればいい

加藤は「社会を変えたい」と考えていても、実際は「力を借りたくない」という行動を示す社会起業家も少ないないという。さらには、自分よりも優れた人を雇うことや、団体の運命を左右しかねない大きなリソースを受け入れるかどうかに恐怖を感じる場合も多いと続けた。

創業者や経営者にとって意思決定や判断はいつだって大変なものだが、事業を前に進める上で、一人で抱え込みすぎず、適切な人に助けてもらいながら経営のスキルを高めていく必要がある。そんな時に自分だけで抱え込みすぎず、理事会からつくっていけばいいと加藤は言う。

そして、加藤は社会起業家と議長やファシリテーターをまず分けて理事会を設計してはどうか?と提案する。つまり、参加者間で発表をする側と、議長やファシリテーターとして場をまとめる役割をまず分割し、起業家がTheory of Changeや問いを投げかけていく。

この理事会という場をどう創れるかということは起業家の力量や伸びしろを測る良い目安となる。つまり、自らの力を頼みにするだけで、小さくまとまろうとするのか、その場で出会った誰かの力を借りながらも大きな進化を遂げようとするのかという姿勢が現れるのだ。

綺麗なアイデアは本当に必要か?

例えば、私が参加させて頂いたのは、同じく参加者の株式会社Compathの遠又香が発表者を務めたグループだ。遠又は共同創業者の安井とともに、北海道東川町でデンマーク発祥の民主主義を育む教育機関フォルケホイスコーレをモデルにした学びの事業を立ち上げる為、法人設立準備中(当時)であり、今まさにこれから起業家としてのスタートを切るタイミングに立ち会わせて頂いた。

この疑似理事会で取り扱いたいテーマは、「事業のエコシステムとしてどういう人たちを巻き込んで進めていくと、”民主主義を学べる場所”が広がっていくのか?」。

つまり、事業のビジョンをカタチにしていくために、どんな人に仲間になってもらうのが良いかという問いだが、効果的に会議を進行する為に、参加者の河野(NPO法人soar)が遠又と事前準備行った上でファシリテーターを務めることとなった。

その上で、参加者としては地域での仕事や居場所づくり、プロセスワークを活用した人材育成、社会起業家支援といった分野の経営者やプロフェッショナルが集まった5名のグループとなった。

当初、彼女たちが準備をしていたトピックはどんな個人や企業、行政等に仲間になってもらうと活動のインパクトが広がるか?だったが、あるタイミングで彼女たちはそのトピックを手放すことを選択する。

疑似的であれ、理事会という圧力の強い場での選択だった。場は遠又のつくりたい学び舎では誰がどんな体験をして、どんな風に意識や行動を変えていくのかをとにかく聴き、言葉にしていく時間に変わった。

特に印象的だったのは、参加したメンバー全員が遠又の取組に自発的な関心を示し、丁寧に意志やつくりたい世界を傾聴していたこと。メンバー全員が遠又の鏡のようになり、事業を通して「本当に起こしたい変化」を浮き彫りしていていく対話が重ねられたことだ。

疑似理事会の終盤で、遠又が「今まさに事業をはじめるタイミングで、本当にやりたいことやつくりたい世界観について話せてよかった」と発言されていた。

重要なのはうまく語れることではない。正解のない状況でも前に進みたいという意志とあえて自らの課題もさらけだすことだ。

オンラインワークショップはソーシャルイノベーションを育むか?

最後に、ここまでの内容を踏まえて、冒頭に立てた問いに立ち返りたい。

インターネット上のコミュニケーションで、ソーシャルイノベーションの可能性や経営の技術は磨かれるのか。私の結論はオンラインワークショップでソーシャルイノベーションを育成出来る可能は十分にあると感じることができた。

オンラインワークショップでは現場の空気や非言語コミュニケーションに頼れない為、自分たちの頭の中にある構想や妄想を、より明確に言語や数値、イメージに落とし込まざるを得ない。そのオンラインワークショップの特性を活かし、事業転換期にある経営チームが戦略や計画、アイデアを一気に磨き、具体化出来る利点は確かにある。

この兆しを機会として捉えるのであれば、これまで東京に一極集中していた学びの機会が地方にも開かれ、全国各地で社会起業家を支えていける可能性が飛躍的に向上するかも知れない。その可能性を指し示すかのように、本講座の参加者は多様性に満ちていた。

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