果樹のデータは都市を変えるか―食べられる都市をつくるには?

 

mundraub代表 カイ・ギルドホルン(後編)

まちの果樹を通して都市住民と自然との関係を再構築しようとしてきたカイ。カイは人々のニーズが把握できたことにより活動が変わってきていると言います。これまでの個人を対象としたサービスから、企業や行政との連携へと、対象が変わりつつあるmundraubの活動は、都市に何をもたらすのでしょうか。

mundraubウェブサイトより画面キャプチャ

まちで実際に収穫できる果物や野菜を使ったレシピを掲載したmundraub作製の本「でかけよう!君のまちは食べられる」

都市の未来を変えつつある6万人が作り上げたデータ

mundraubは今年で10年目を迎えます。カイは今、都市に暮らす人々の生活のあり方を変えていこうとしています。この試みは、mundraubのこれまでの活動の中で「都市の人々に自然を通した経験が欠けている」ということに、カイ自身が確信を持ったことによります。

果樹を調べられる地図はもちろん、ユーザーがダウンロードして活用できる、植樹や間引き方法のガイドライン、イベント開催用のハンドブックまで、mundraubではこれまでユーザーの個人的な活動を手助けするためのサービスが提供されてきました。

このような取り組みを経て、6万人のユーザーが9年間をかけて作り上げたmundrauubの地図には、自然と人間との関係性がデータとして集まっています。そこには、個人の自然への経験を変えるだけではなく、都市全体の経験を変えていく力があるとカイは語ります。

例えば、mundraubのユーザーと登録された果樹の位置情報からは、mundraubのユーザーの多くが大都市の住民であること、そして都市を中心により多くの果樹が登録される傾向があることがはっきりしました。彼らがmundraubの地図を利用して郊外の森に出かけるのは、家に自然を経験できる自分の庭がないからだとカイは分析しています。一方で、地方に暮らす人々はmundraubに全く関心がないそうです。それは、彼らにはわざわざmundraubで木の場所を調べてフルーツ採取に出かける必要がないからです。

これは単純な例にすぎませんが、mundraubの持つ莫大なデータは、自然に興味のあるユーザー像だけではなく、自然と人間とのコラボレーションが活発な地域、そのコラボレーションがなぜ活発なのか、人々の本来の関心やニーズはどこにあるのか、企業が求める地域住民との関わり方はどのようなものなのかなど、様々な側面を明らかにするとカイは言います。

mundraub果樹マップより画面キャプチャ

mundraubの手がける地図。登録されている木はたしかに都市に集中する。

食べられる都市を作る―鍵となるのは企業の持つ果樹園

都市行政向けの事業を展開していく上で、鍵となったのは大企業が全国に保有する果樹園の存在でした。

ドイツでは環境に関する法律により、企業が道路や電線を作るなど自然にダメージを及ぼすような活動をする場合には、その分環境によいことをしなければなりません。そのため、ドイツ全土に企業所有の果樹園が造られましたが、その中には手つかずの状態で放置されている果樹園が多くあるとカイは言います。

法律上の義務だけであれば、企業は環境への貢献活動として果樹園を造るまでをすればいいのですが、mundraubは企業に働きかけ、果樹園を使った市民が参加できるイベントの開催を手助けし、企業と消費者の関係性のあり方すら変えようとしています。

果樹園

収穫、植樹、ジュース作りなど、様々なイベントが開催され、多くの家族が集まる

例えばドイツ全土に600を超える店舗を構えるスーパーマーケット・チェーンのカウフランドの果樹園では、mundraubが協力してすでに4回の地域住民に向けたイベントが開催されました。そしてこのカウフランドとの繋がりには、大きな可能性が秘められているとカイは語ります。

それは全国を網羅するスーパーマーケットは地域に根付いた存在だからだそうです。サービス業は常に地域に貢献できる機会を探しています。同様に、行政も自分のエリアを良くしたいという同じ目的を持っています。行政が自然資源を市民に提示することができれば、街の魅力の再評価に繋がります。mundraubは、企業の果樹園を企業と行政、そして市民を繋ぐ結び目にしようと試みているのです。

mundraubの地図が長年放置されてきた果樹を資源として再発見したことによって、今まさに行政、企業、市民の関係に明るい変化が起きようとしています。カイはすでに何人かの市長と具体的な話をし、快い返事を受けたと顔をほころばせます。

果樹データは食のエコシステムを再生するか?

mundraubでは現在、Edible City(「食べられる都市」)という都市行政に向けた包括的なサービスの構築に取り組んでいます。新サービスの鍵となるのは、放置されたまちの果樹と企業が持つ果樹園で、「街の中に自立した食のエコシステムを作ろう」という構想です。

Edible Cityのサービスでは、mundraubのマップをそのまま行政のホームページに埋め込むことができる機能を展開し、行政自身が自分のまちの果樹や果樹園を市民に提示することができるようにするそうです。行政が持て余してきた果樹という資源を、市民に提供し、食のエコシステムを再生しようというのです。

農薬の使用や表示偽装など、食を巡るスキャンダルが全世界を駆け巡る中で、都市に暮らす人々は、日々の糧を供給してくれる自然から切り離された生活に不安を覚えています。

だからこそカイは、まちの果樹をデータとして集約することによって、都市に暮らしていては通常知ることのできない自然の在り方を見れる場所や、継続的に自然と関わっていける環境を都市住民に提供し、彼らと自然との関係を再構築しようとしているのです。

関連記事
前編 フルーツ泥棒になりませんか?―地図アプリが変える都市住民の暮らし

Kyoko Fukuda

Kyoko Fukuda

東京都出身、ベルリン在住。立命館アジア太平洋大学卒。日英翻訳・ライター業と並行して、リープ共創基金の広報を担当。まちづくりから動物愛護までボランティア活動に携わる中で、寄付迷子になってしまった時に財団に出会う。財団が成長すれば資金の流れが根本から変わって「人と自然に優しい社会」にできるかも!と野心を抱きながら財団にじわりと参加。財団HPのブログには宇宙の名前で登場している。

関連記事

  1. フルーツ泥棒になりませんか?―地図アプリが変える都市の暮らし

  2. 最貧層からのベーシックインカム

Hot Articles

Special Thanks

Suguru Ikuta, Tsukasa Sawaguchi, Saori Hasimoto, Nanae Hirohata, Jiro Atsuta, Junichiro Yuki, Keiko Kiyama

PAGE TOP