フルーツ泥棒になりませんか?―地図アプリが変える都市の暮らし

 

mundraub代表 カイ・ギルドホルン(前編)

mundraubは環境活動にITをいち早く取り入れたドイツの非営利目的会社です。まちの果樹をオンラインの地図上で「発見」できるサービスは、都市住民を中心に瞬く間に広まり、登録された果樹は5万本を超えます。ドイツを代表する社会起業家として世界的に活躍を評価されるカイはmundraubのサービスを通して、都市住民と自然との関係をどのように再構築しようとしているのでしょうか。

イノベーションのアイディアは大好きな自然の中で生まれた

mundraubの元となるアイディアが芽生えたのは2009年のことでした。僕はそれまで環境コンサルタントとして働いていたのですが、前年からの経済危機の煽りを受けて失業中でした。

そんな時に、たまたまアウトドアが好きな友達とカヌーに行こうという話しになったんです。川辺に向かう道中、僕たちはスーパーに寄ってたくさんのフルーツを買い込みました。しかし川に到着してみると、食べられるりんごやプルーンの木がたくさんあり、フルーツがそこかしこに転がっていたんです。

見つけたフルーツは、本当にたくさんあって、しかも誰も取らないからすでに腐っていっている。無料で食べられるフルーツや木の実が道端に転がっているのに、なぜ僕たちはわざわざ地球の反対側から輸入したフルーツをスーパーで買っているのかと強く疑問に思ったのです。

そこでカヌーに行った友達と一緒に考えたのがmundraubの元となる果樹マップの作製です。カヌーに行ったのは2009年末で、実際にインターネット上にマップをリリースしたのは2010年でした。

カイ・ギルドホルン

mundraub創業者。環境コンサルタントとしての顔も持つ起業家。利用されていないまちの果樹を活用し、郊外の発展につなげる解決策を提示したとして、2016年アショカフェローに認定。

mundraub

まちの果樹のオンラインマップを提供するプラットフォーム。ドイツではまちの果樹の10%にあたる5万本を超える果樹がアプリ上に登録され、利用者はマップ上で果樹を探して収穫に行くことができる。近年では企業のCSRを担う事業も行っている。ドイツ語でmundは“口”、raubは“泥棒”を意味する。

小さな地図が自発的なコミュニティを生んだ

僕たちは果樹の場所を記した地図に、ユーザーが新しく果樹を登録できる機能や、情報交換ができる掲示板などの機能を持たせました。2010年の段階ではまだ個人的なプロジェクトの域を越えないものでしたが、ユーザーがどんどん新しい果樹を登録し始めていて、その時点ですでに大きな反響を得ていました。

mundraubを通じて全国でフルーツ採取イベントが行われるようになり、プロジェクトが日に日に大きくなる中で、2011年には、機能を拡充したり、法律に違反しないように許可を取ったりと緊急で対応すべき事柄が山積みになっていました。

それなのに、人手や資金が全然足りていなくて。もともと友達と個人的に始めた活動だったので、事業の拡大への対応に連日大忙しでした。ここに来て、草の根的な活動からもっと体系だった物へ、少なくとも会社と同等のものにしていかなければならないと気が付きました。

こうしてmundraubは果樹を探すための地図から、人々が長期的に自然と関わっていくために必要なコミュニティ・プラットフォームへと育っていきました。

位置情報がコミュニティのつながり方を変える

当時はスマートフォンの普及し出した頃で、ちょうど位置情報を使った地図アプリの使用が当たり前になってきた時期だったんです。そんなこともあり、mundraubを一緒に立ち上げたメンバーとまちのフルーツの存在を広く知らせることができないかと話していて、自然にマップ化してみようという流れになったんです。

mundraubの果樹マップの画面キャプチャ

ドイツ語圏を中心に国を超えて広がったmundraubの果樹マップ

mundraubの活動が広がった理由には時代の流れもあります。2009年、2010年はmundraubやFoodsharingといったサステイナビリティを目指した運動が、お互いの存在を知らずに同時に生まれた時代でした。経済危機があって、今の社会の成長の仕方は自然じゃないということに人々が気づき始めていて、考えを改めようとしたタイミングだったんだと思います。

それまで一方向だったコミュニケーションが、スマートフォンの普及によって、相互のコミュニケーションがリアルタイムで可能になり、人々がアイディアを活発に交換し出した時期だったんです。個人的な試みとして始めたmundraubは、予想に反して瞬く間に広まっていきました。

元々、僕らは別に周りの人を教育しようとか、励まそうなんて気はなかったんです。逆に、地域ごとの責任者を立てて、活動を大きくしようとしたこともあったのですが、全国で活動するみんなで集まってミーティングをしたり、活動の方針や内容を管理することが難しく、結局失敗してしまいました。

だから、「フルーツ泥棒」が楽しめるようにネットに情報を載せたら、善良な泥棒たちが勝手に集まってきたというのが、やはり、真実なんです。たまたま道の端っこで腐っているフルーツの存在に気が付いてしまっただけなんですよね。

Foodsharing

ドイツの環境NPO。廃棄予定の食材や食品が廃棄される前に、店に登録者が受け取りに行くことで、食品廃棄を劇的に減らすことに成功した。活動は全世界に広まっている。

都市の住民は自分が何者か知りたがっている

ドイツの人々は、ここ数年ヨーロッパ中で次々と明らかになっているフードスキャンダルに辟易しています。BSEや農薬などの問題が明るみに出たことで、人々はさらに食べ物に関心を寄せるようになりました。

現代に生きる人々は食料品店で食料を購入しますが、それがいつどこでどんなふうに育っているのか、知ることが難しい。多くの子供は「商品としてのフルーツ」を知っているけれど、それを採る経験をしたこともない。

だから、自分の口に入る食べ物がどこから来て、どうやって育っているのか、皆知りたがっています。そしてそれを自分の子どもに見せたいと思っている。多くのmundraubユーザーが果樹の在りかを自分で調べて、子どもを連れてそこに出かけます。それは自分で果物を採るということはいったいどんな経験なのか、実際に子どもたちに経験させたいからです。

田舎で暮らしていれば、木がどのくらいの年月をかけて成長し、死んでいくのかを生活の中で知ることができます。しかし多くの人々は長い期間を経て自然に何が起こるのかを体験できなくなっているのです。

人々は今日の社会を生きるうえで自身が依拠する自然についてについて知りたい、もっと言えばエコシステムや生き方を含めて考え直したい。これがmundraubを利用する一番の動機なのです。

後編では、カイのこれから挑戦に焦点を当てます。これまで行ってきた個人から、企業や行政との連携へと、対象が変わりつつあるmundraubのサービスは都市に何をもたらすのでしょうか。ぜひご覧ください。

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Kyoko Fukuda

Kyoko Fukuda

東京都杉並区出身。2018年より翻訳家・ライターとして活動を始める。まちづくりから動物愛護までボランティア活動に携わり、よりよい社会とは何かを考えてきた。2017年ベルリンに移住。これまで大分県、インドネシア・バンドン、英国・ロンドン、ドイツ・ベルリンで暮らしてきた。

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