8週間に1週間は冷徹に休ませる―まずは支援する側のケアから

 

対談:JEN木山啓子×soar工藤瑞穂(後編)

対談の経過とともに、ふたりの熱が混ざっていく。左から、木山啓子(JEN)と工藤瑞穂(soar)

すっかり「同志」の雰囲気が出てきたふたり。話はスタッフのケアや編集方針など、どんどんと具体的になってきます。支援する側のケアの話が、なぜ、そんなに重要だったのでしょうか?

木山

自立支援の現場で、「支援される人には力がない」と思い込んで関わる人たちって、善意かもしれないけど、力をそぐ方向になっちゃうことも多いと思うんですよね。その善意を、力を発揮させる方向に向かわせる手助けみたいなことって、やれるところってあるんでしょうか?

工藤

soarでは記事を通して、「この病気の人はこんな困難がある」ということだけでなく、「こういうヒントがあるみたいだよ」みたいなことを提示したり、記事の中で「わたしたちは応援しています」っていう気持ちが伝わるようにしています。インターネットを通してではあるんですけど、励ますこともできますよね。読者からのコメントにも「いいね!」をしたりお返事を返すこともときどきありますし、「soarとつながってる」という感覚を持ってもらえたらいいなと思っています。

木山

それ、すっごくいいんですけど、すごく大変じゃないですか?

工藤

いまのところはそれほどの量ではないですが、確かにこれからもっと読まれるメディアに育っていったときに、どこで線引きするのかっていう問題は出てきますよね。

エンパワーメント

この記事はWILLのキーワードのひとつとしているエンパワーメントという概念を照らし出す対話でもありる。エンパワーメントの側面は、大きく分けると二つある。一つは、当事者の能力獲得のプロセスであり、もう一つはその基盤となる状況認知のプロセスだ。対話の多くは、前者のアプローチだったが、後編で語られたsoar工藤の「ネガティブな感情の連鎖を最小限に抑え、ポジティブな感情の連鎖を最大化させる」という工夫は後者の視点でとてもユニークなものだ

休ませるのは冷徹にやらないといけない

工藤

NGOの方たちって気持ちが強い人が多いですよね。soarの編集部では、たとえば自殺とか虐待とか、そういった分野は取材して書く側にも精神的な負担があるじゃないですか。記事公開後は、SNSではもちろん好意的なコメントがほとんどですが、ときどき心無い言葉が書き込まれるときもあったりして。NGOだと、メンバーのケアってどうしているんですか?

木山

緊急支援でも、すごく仕事量が多い瞬間っていうのはあるんですよね。だから、ストレスがかかりすぎて病気の一歩手前にならないように、支援する側としてもかなり気を付けています。強制休暇制度も設けているんですが、「自分が休まなければ、もっと水が届くんじゃないか」みたいな気持ちになってしまう人もいるんですね。

それを休ませるのを結構冷徹にやらないといけない。年に一度のカウンセリングも、調子が悪いスタッフにだけ受けてもらうのではなくて、それこそ強制的に全員に受けてもらうと決めています。

工藤

みんなやってる状態が大事なんですね。

木山

そうですね。共感力が強いからこそいろいろなサポートがしやすいんですけど、共感力が強い人たちは一緒に体験してしまうところがありますからね。

強制休暇制度

紛争や災害時の被災者支援に行うNGOでは、緊急度の高い任務も多く、スタッフの負荷も極大化する。そのような任務を要求される地域では、8週間連続で勤務したら1週間休暇を強制的に取得させるなど、身心のバランスも含めたリスク・コントロールのために強制的に休ませる制度を取り入れているNGOも多い。

追体験させることが危険なことがいっぱいある

工藤

わたしたちも読者に追体験させてしまうと危険なことがいっぱいあるなと思っています。いじめとか性被害を受けた人たちの経験は、事実ではあるものの、そのまま生々しく書いてしまうと、共感しやすい人とか少し心が弱っている場合って、一緒に落ち込んでしまうことがあるので、いかにネガティブな方向に引っ張らないかということも意識しています。

木山

どうやってそれを徹底しているんですか?

工藤

書く人って相手に憑依するタイプの人もいるんですよね。わたしはsoarでは絶対にそれはしちゃいけないと思っていて、あくまでもわたしとあなたで、「あなたを紹介します」っていう気持ちで書くことは意識しています。

記事自体でなるべく追体験させないみたいな工夫は、たとえば、うつをテーマに書いた記事ってネガティブなイラストとか記事を使われることが多いと思うんです。うつだったら頭を抱えている写真とか、イラストでも暗い色を使ったり。わたしたちは絶対にそういうイラストを使わないと決めています。

なかには、「落ち込んでたのもわたしだから、そのときの様子も入れてほしい」っていう方もいるんですけど、それでもわたしたちはネガティブな印象を与える画像は使いません。視覚からもらうものってすごく多いと思っているので、目に焼き付いてしまうものは絶対に使わない。

ポジティブなものがいっぱい出てくるまで聴き続ける

工藤

それで、できるだけ心が温かくなるイラストとか写真を使うようにしているんです。よくSNSとかでテロや戦争の悲惨な状況の画像が、記事のサムネイルになってタイムラインで流れてくることがありますが、心の準備がない状況でそれを見ると、人によっては大きなショックを受けてしまう場合もあると思うんです。震災の時期に津波の写真ばかり見て落ち込んでしまったという声もあったので、そこは気を付けたいですね。

木山

すごくいいですね。それこそ、うつの状態の方の中にも明るいものも本当は眠っているのに、全然出てこない。すべての人は多様で、ひとつだけの、暗いだけの人っていないから、そのいろんな部分があるっていうことを、自分の中の元気なところにもう一度気づかせるという意味もありますね。

工藤

そうですね、病気の当事者にコラムを書いてもらうと、最初はすごくつらい経験とか社会や医療制度を憎む気持ちが強い方もいらっしゃいます。

それでも、「そのとき支えになったものとか人とか言葉ってありましたか」とか、「そんな大変な状態だけど、それでも同じ病気の人に励ましを届けるとしたら、どんなことを言いますか?」と聴き続けると、ポジティブな言葉もいっぱい出てくるんですね。

木山

インタビュー自体が一種のカウンセリングになっているんですね。

工藤

それは結構インタビュアーも意識していて、やっぱり微細な気持ちとかっていうのを聞いていくと結果として、カウンセリングに近くなるところはありますよね。記事をつくっていくなかで、その人の本当にいいところや希望を見つけて、それを出してあげるみたいな役割になれればいいなと思っています。

エピソードがエピソードを引き出す対談の終盤

誰にも頼まれていないのに、何か役に立ちたいと思えるところまで進めるか

木山

人を助ける感覚、誰かの役に立つっていうのがすごく自立に大事なんじゃないかって思います。それが成功体験のひとつのかたちなのかもしれない。

成功体験のためのチャレンジっていうのは、それ自体はそんなに大したことじゃないんですよね。でも、たとえばハイチでのプロジェクトのことなんですけど、1日座って何かを学ぶことなんて、慣れない彼らにとっては大変じゃないですか。それを3日間やるとなると、それだけですごく大きなチャレンジなんですよね。

そのときは受講した方に適切な手の洗い方を知ってもらって、それをどうやって伝えるかを知ってもらうっていう、衛生教育のプロモーター育成をやったんです。その人たちは無償ボランティアで、山々を回って手の洗い方を無理やり伝えるんです。そのあとちょうどコレラが流行ったんですけど、彼らが回った山では誰ひとりコレラの死者が出なかったんですよね。

工藤

それはすごくいいですね! インタビューで聞いていても、小さいときから病気と闘っていたりいじめに遭ったりとか、そういうのでずっと自分に価値がないと思って生きてきたという人も多いんです。でも、誰かと気持ちを分かち合ったりとか、自分の経験を話すことが誰かを元気にしたり励ましになるって知ったとき、ポジティブな変化が起こることが多いような気がしますね。

誰かに支えられたり癒されたりして変わるんじゃなくて、自分が何かできたっていう感覚で変わるのってすごくいいですよね。

木山

ハイチの話には後日談があって、そのときの無償ボランティアのひとりが、ある日、わたしたちが車で通っていたら、道端の木陰にいたんです。何をしてるのかと思って見たら、自分で水タンクと石鹸を用意して、手の洗い方のポスターを木陰に貼って、道行く人を呼び止めて手の洗い方を教えてたんです。自分は失業しているし、誰にも頼まれていないのに、何か役に立ちたいって思って。

工藤

いいですね! 誰かの力になる。そのエピソードはsoarでも届けたい。

ハイチでの支援プロジェクト

JENは2010年の地震を機にハイチでの支援を開始。緊急支援後も、感染症拡大予防のための水衛生環境の改善をサポートした。給水施設の修復だけでなく、長期的な施設維持のための体制づくりや、住民からボランティアを募って衛生教育の促進キャンペーンなどを行った。http://www.jen-npo.org/jp/project/project_haiti

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廣畑七絵

廣畑七絵

高知県出身。ノンフィクションライター。取材対象はご近所から海外まで。国際協力関係機関職員を経て、出産を機にライターに転身。大学時代に文化人類学を学び、フィールドワークを手法としたライティング、取材を得意とする。女子サッカーをたしなみ、学生寮の寮母もこなす。

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