社会に貢献する企業は経済的な利益を持続させる

 

最新のESG投資の比較研究から

ESG投資という言葉を聞いたことがあるだろうか? ESG投資は社会的な成果と経済的利益を両立させようという社会的投資のアプローチの一つだが、ESG投資はいまや資本主義のあり方を一変させようとしている。

最新の調査では、人類全体が資産運用を行っている約1京円(88TUSD)の資産の約12%にあたる約1180兆円(10.4TUSD)がESG投資で運用され、その他の社会的責任投資を含めれば、人類の総運用資産の約26%にあたる約2600兆円(22.9TUSD)が何らかの社会的目的を考慮する投資に振り向けられるようになったという。ここでいうESG投資とは、投資の意思決定においてESG指標が用いられたものだけを指すが、既に人類が運用している資産の12%の運用にESG指標が用いられているのだ。(The Global Sustainable Investment Review, 2016)

歴史を振り返れば、ESG投資は2004年のコフィ・アナン国連事務総長よるイニシアチブに由来する。その中で、ESG投資が概念化され、その中で社会的課題の解決がいかに資本市場における評価と連結するか検証されていくことになった(The Global Compact, 2005)。その後、このイニシアチブは国連による責任投資原則(PRI)として昇華し、世界の主要な機関投資家を巻き込み、資本市場を変えていくことになる。

ただ、ESG投資に今も寄せられ続けるのは社会的な成果と経済的な利益は両立するのか?という根本的な疑問だ。このような疑問に対して、国際機関による取り組みから草の根の起業家たち、そして、先んじてリスクを取った投資家、さらには、各国の研究者たちがこぞって検証を行おうとした。

ESG投資

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス (Governance)の三点に重点的な配慮を行う投資アプローチ。それぞれの頭文字をとってESG投資と呼ばれる。近年、投資や経営の意思決定に組み込まれ、主要な投資機関や企業が説明責任を負うようになった

責任投資原則

国連によるイニシアチブでESG投資を行う機関投資家を中心に署名が行われている。署名を行うと、責任投資原則に基づきESG投資に関する活動や進捗の報告義務や公開義務が生じる。日本では日本生命や政策投資銀行など機関投資家を中心に67社が既に署名を行っている

オックスフォード大学の研究者等によるESG投資の検証

そのようなあらゆるセクターを巻き込んだ実験や調査の結果として、ESG投資に限れば、社会的な利益を積極的に求めた方がむしろ経済的な利益が持続するということが判明している。

オックスフォード大学の研究者達は200以上の先行研究の比較調査を行い”From The Stockholder To The Stakeholder”と題した論文を公表した。論文によれば、社会貢献活動(ESG)に真剣に取り組む企業は良好な業績を維持し、経営リスクを低減させることができることがわかったのだ(Viehs et al. 2014)。

つまり、経済性と社会性が相反するかのような疑問は投資家や経営者の恐怖心の表れでしかなかった。

社会貢献に取り組めば、業績は安定する

比較調査の対象となった研究の大多数では、社会貢献活動(ESG)に取り組む企業の大半では、資本の調達費用を下げることができ、良い業績を継続し、さらに株価も安定させるということが観察された。例えば、環境効率は製造や物流への費用を縮減させ、社会関係への考慮は顧客や従業員との良好な関係性を築くのだ。そして、ガバナンスへの意識は企業の存続にとっての決定的な危機を管理下に置くことができる。

この比較研究において重要な前提は企業の「社会貢献」と「本業」が重ね合わせられつつあることだ。例えば、上記の比較研究において示された「社会貢献」の重要指標は上図のように示された。企業によって、指標の優先順位は異なると述べられているが、この指標のどれをとっても企業の業績、いや、存続にとって決定的な影響を及ぼしているということが想像できるだろうか?

グローバル企業の巨大化と共に膨れ上がる経営リスク

例えば、経営リスクの一角となった制裁金に関しては次のようなランキングが並ぶ。多国籍企業の規模の拡大に伴い、1兆円規模の制裁金を受ける企業は急速に増加しつつある。

この制裁金の世界上位ランキングには掲載されていないが、もちろん、日本企業も例外ではない。近年の神戸製鋼の品質情報の改ざん、東芝による不正会計、東京電力は原発事故の賠償はそれぞれ企業の存続に対して致命的な影響を及ぼしており、東京電力においては賠償金として8兆4,220億円を計上している(2018年9月現在)。

評価という永遠の課題をどう乗り越えるか

ESG投資は万能のツールではない。ESG投資も含め広く社会的投資と呼ばれる領域には課題も山積みされる。例えば、経済性の観点からどのような成果が創出され、それがどのように測定され公開されるかは遵守すべき一定の基準が確立している。そのうえで、モラルハザードを防止するために一定規模を超えた主体であれば第三者による監査が義務付けられている。

一方で、ESG投資における社会的成果に関しては未だ当事者の自主的な調査や成果報告に測定が委ねられている。IRISなど基準となる指標が徐々に浸透しつつはあるが、社会的条件や目標が多様さを極める中で確立したシステムを浸透させるにはさらに十数年はかかるだろう。

例えば、社会科学における証明にはランダム化比較試験(RCT)を行う必要があるが、それを小規模のプロジェクトに適用するには、費用の面でも体制の面でもまだまだ課題が大きい。さらに、仮に社会的効果が誠実に検証されたとして、誰が追加の投資を負担するのかという問題も解決されてはいない。

まだESG投資をめぐる問題の多くは解決していない。しかし、ESG投資を筆頭に社会的投資は資本の流れを変えようとしている。

ここまで、ESG投資の最新動向を中心に述べたが、本連載では社会的投資の動向を今後も追っていこうと思う。今回の焦点は主に大企業を対象としたESG投資だったが、ベンチャー企業を対象とした社会的投資や非営利組織、そして、行政を主体とした社会的投資はどのような変化を遂げているのだろうか。

Impact Reporting and Investment Standardsの略称。社会的成果を測る指標のデータベースであり、カタログのように使えるようにデザインされている。社会的成果の測定において、最初に参照されることが多い。
https://iris.thegiin.org

ランダム化比較試験

比較対照試験の一種。実施している薬や治療法などの性質を観察者からも患者からも不明に比較対照を行う二重盲検法が用いられる


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Tetsuo Kato

アジア及び日本におけるベンチャー企業および非営利組織の事業開発に携わり、計27社の事業開発及び変革を支援。2011年、東日本大震災を契機にWorld In Asiaを立ち上げ、以降、東北、日本、アジアでの「社会的投資」を手がけてきた。AERA「アジアで勝つ日本人100人」に選定。著書に「辺境から世界を変える」(ダイヤモンド社 2011年)

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