タブーとされていることだから持続可能なプロジェクトになりえる―見えない問題に飛び込んでいくには

 

GOONJ代表アンシュ・グプタ(後編)

インドを代表する社会起業家アンシュ・グプタ。彼は古着を貧困層に提供するのみならず、それを契機として、貧困層の尊厳の回復に乗り出しています。アンシュは「目に見えない問題に目を向けるからこそ持続可能な支援が可能になる」と語りますが、社会を変えるにはどのような視点で問題を見つめればよいのでしょうか。

アンシュ・グプタ-1

GOONJ代表・アンシュ・グプタ氏

「あたりまえ」だから、いつも見落とされるニーズ

アンシュ・グプタの取り組む衣類の問題は、「衣食住」という人が生きていく上で不可欠な要求の中でも最も支援が行き届いていないといいます。それはなぜなのでしょうか?

実は同じ質問を何千回も聞かれています。しかしその質問に対するはっきりとした答えは持っていません。

毎日、あたりまえのように服を着て生活をしていると、服がないということで死に繫がることがあるということや、服を渇望する人の存在はなかなか想像できないことだと思います。身の回りに溢れているものだからこそ、誰もが見落としがちなのです。

私が衣類の問題に気が付いたのも、取材で訪れた僻地のキャンプで夜の寒さを実感した時でした。衣類の問題がなかなか目を向けられないように、気づかれていない当事者のニーズがそこに眠っている可能性があります。

アンシュ・グプタ

GOONJ代表。ジャーナリストとしての背景を持ち、1998年にGOONJを創業。2004年には世界最大の社会起業家ネットワークであるアショカ財団から、大陸規模の変革をもたらす社会起業家として選定されるなど、国内外から高い評価を得ている。

GOONJ(グーンジ)

インド農村部で経済格差の解消に取り組むNGO。インフラ整備といった労働への対価として、寄付で集めた古着を配布するなど、貧困層の尊厳を守りながらも、コミュニティを発展させる支援システムを生み出すことに成功した。
現在では同様の取り組みがインド全土12の拠点で展開される。寄付される古着は年間3千トンにのぼる。

だから、あえてその場に足を運んでみることから始まる

―では、気づかれていない当事者のニーズに気づくにはどうすればいいのでしょうか?

ヒンズーの言い回しを紹介したいと思います。ものの見方には二つあり、ひとつは広く見渡す見方と、もうひとつは目を細めて見る見方があるというものです。アクションを起こして、何かを変えたいと思うなら、後者の見方をする必要があります。

人のニーズというのは、実際にその場に直面しないと気がつかないものです。

例えば、災害があると、まず必要な水を届けようという動きがあります。しかし給水車が来ても、水を入れる容器がなければそこで水を飲むだけです。給水車が去ってしまえば、また水がない状況になります。この時、水を保管する道具が必要なことに気づくと思います。

私たちが扱う古着も、支援物資として集まりやすいものですが、適切な管理と分配がされなければ、ゴミの山になるだけです。

私たちの世界というのはマクロレベルで問題を捉えることが多いですが、当事者の視点に立って一つ一つの細かい問題に目を向けることが必要になります。

怖い、恥ずかしいという感情から目をそらさないこと

―アンシュは自身の活動について語る際、まず、GOONJ設立前に目にした、ある貧困家庭の少女の話をします。

当時当時6歳だった少女は、暖房器具のない家で暮らしていました。困窮する生活の中、少女の父は1体50セントという値段で遺体の運搬をする仕事をしていました。彼女は凍える寒さの中で、まだ温かい遺体に寄り添い暖をとったそうです。

貧困層の現実を突きつけるこの少女の話は、私の母国インドに対して悪いイメージを持たれる可能性があるため、非常に注意して話しをしています。

また、私たちが取り組む生理用品の問題も、話すことを恥ずかしく思って話すことをためらう人が多くいることも事実です。多くの重要な問題は、怖い、恥ずかしいという気持ちがあることによって、社会の中で議論されずにきました。

アンシュ・グプタ-2

古着から制作した生理用ナプキンの使い方を農村部の女性に説明するGOONJスタッフ

しかし、当事者の視点に立って見えてくるこういう感情こそ、大切にする必要があると思います。真に問題に向き合うには、怖いとか恥ずかしいという気持ちを忘れずに、現実をきちんと直視しなければいけません。

眼をそむけたくなるような現実から決して目をそらさないということです。なぜなら、私たちが活動を続けているのはこのような現実を変えたいと思っているからなのですから。言い換えれば、怖い、恥ずかしい、と目を背けてきたところにこそ、対応が必要な問題が眠っている可能性があります。

GOONJの女性への取り組み

女性の生理は穢れとされ、正しい知識を持たない人も多い。恥じらいの感情と貧困から、実に7割の女性が衛生的な生理用品を使用できない環境にある。GOONJが古着から生み出す生理用ナプキンは年間4千万個。農村部の女性に普及する活動を行い、社会的にタブー視されてきた問題に正面から取り組んでいる。

本来取り組むべきものは見えていないものの中にある

見えるところだけではなく、その先を見渡して、見えていないところまで目を向けることが重要です。もしかしたら、見えていないものの中に、実は私たちが本当に取り組むべき課題があるのかも知れません。

例えば、インドでは最近大きな洪水があり、洪水の後に老若男女を問わず心理的ケアを提供する試みがあったのですが、子供に対する心理的ケアが軽視されていた傾向がありました。

洪水があって水がなかなか引かない状況が2、3ヶ月あり、その間、何千頭もの家畜が死にました。そして1年後、その洪水を経験した子供たちに絵を描かせてみると、子供の描いた絵の90%が、例えば、洪水を描いた絵だったり、そこでおぼれゆく人だけを描いていたり、おぼれながら流される牛を描いていたりというものでした。

私たちは、洪水の被害を把握し、再建に取り組みながらも、子供が抱える大きなトラウマに気づいていなかったのです。

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GOONJが支援する子どもたち

問題の渦中で解決策を発展させることの重要性

問題に気づいてから取り組みに発展させていくには、問題に深く深く飛び込んでいくことが必要です。深く飛び込んで行けばアイデアも出てきます。

そして、私たちは実験を繰り返すようになります。例えば、自然災害がいつ起こるのか、というのは誰にもわからないことですし、未来に対して一つ一つプランを立てるのは不可能なことです。であるならば、問題に気づいた時に深く考えてアクションを起こすことが大切なのです。

私の場合は災害支援に入った現場で、住居や食料よりも衣類を求める被災者に出会ったことがきっかけで、衣類の問題に気がつきました。

それからは古着で支援を行うことを決め、二番目に具体的な古着の収集方法について考えました。三番目には古着の分配の仕方について、四番目には、古着にどうやって寄付でありながらも尊厳を持たせることができるか、ということも考えていきました。それから五番目に、集めた古着からどのような製品を生み出していくことができるか、どのような製品に変換できるか模索していきました。

このようにどんどん熟考を続けていけば、次第に自分のやるべきことが明確になって、活動は成長していくものだと思います。

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寄付で集まった古着を加工する女性たち

当事者に寄り添えばプロジェクトは持続可能なものに変わる

取り組みを行うにあたって私が大事にしていることは、それが当事者の状況に寄り添ったものであるかということです。決して自分たちの基準だけで判断しないことが大切です。

生理用品のアイデアは、最初はとても批判されました。使い捨てではないナプキンは衛生上良くないとか、公の安全基準を満たしているのかとか色々な意見があり、プロジェクトを理解してもらえるまでに長い時間がかかりました。しかし、彼らはなぜこれを自分自身の問題として判断して批判するのでしょうか。

今のインドの状況を考えると、特に農村部では個室化されていないトイレが多いので、プラスチックの使い捨て生理用品は女性には抵抗があります。対して私たちの製品は、使うために特別に何か学ぶ必要はありませんし、特殊な技術もいりません。ユーザーフレンドリーです。これが役に立つのか、必要かどうかは誰が決めるのでしょうか。それはこれを必要としている当事者が決めることです。

従って、現地の状況や、当事者が使用できるということを大事にしなくてはいけません。当事者との支持さえ得ることができれば、次第に人々に受け入れられて、持続可能なプロジェクトになるのだと私は考えています。

本記事は、2013年にアショカ・ジャパンの主催、招聘で行われた講演・ワークショップを一部加筆し、記事化したものです。一部の詳細情報は、INK Talks ”The invisible disaster”を参考にしています。

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Kyoko Fukuda

Kyoko Fukuda

東京都杉並区出身。2018年より翻訳家・ライターとして活動を始める。まちづくりから動物愛護までボランティア活動に携わり、よりよい社会とは何かを考えてきた。2017年ベルリンに移住。これまで大分県、インドネシア・バンドン、英国・ロンドン、ドイツ・ベルリンで暮らしてきた。

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